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春待ち風4+4の赤い機影白の大地に恋をして - 1/2/3/4| みゅうのそら (Coming soon...)|

白の大地にをして
White Hawk and Snow Rabbit #1

越後の国には、人間の特急電車に憧れた一羽の兎と鷹が暮らしていた。
2009年6月17日 #1執筆終了、2010年1月12日 html化


“王者”は、270キロメートル弱の道のりを、寄り道をしつつも2時間半足らずで飛翔するらしかった。
王者が持つ茶色だった羽は、彼が表舞台から消えていた15年の間にいつしか白に染まったうえに、一条のワインレッドを帯びている。
高速度の飛翔、雪景色に調和しつつも映える色彩。まさに、雪国である北陸を疾走する王者の威厳、とも言うべきか。
とにかく、この舞台にその姿は文句なしの出来映えだった。

その日、越後には久しぶりに太陽が顔を覗かせていた。
先日まで降りしきっていた雪が、越後の大地を白銀に染めている。
その白銀は燦々と降り注ぐ陽光を照らし返し、自身の色より眩しいほどに輝いている。

王者の大地、越後。
その美しい大地を飛翔する王者に、ひそかに思いを寄せる一羽の鷹が居た。

− 白の大地に恋をして 〜 White Hawk and Snow Rabbit −

その鷹は、王者に憧れていた。時速160kmもの高速で飛翔する、白にワインレッドの翼を持った王者に。
王者のスピードは、決して時速200km、時には時速300kmを出すとも言われる隼のそれには到底及ばなかった。
それでも、彼は隼ではなくその王者こそが、自分にとって最上に君臨する存在だと確信していた。

その王者の名は、“特急はくたか”。
時速160kmという、越後、いや、全国の在来線で最速のスピードを誇る王者である。

王者は15年もの間、その羽を休めていた。それにも拘らず、今なお越後で最速のスピードを誇っている。
それだけではない。15年の間にも「はくたか」の存在を忘れるものはおらず、羽を休める以前も再び飛翔し始めてからも、ずっと愛され続けているのだ。
それが、速度こそ隼に劣れど、“特急はくたか”こそが彼にとっての王者である理由である。

時を越えてなお力強く飛翔し、愛され続けるとは、どういうことなのだろう。
王者、“特急はくたか”は、その鷹が考え続けていることを示してくれるような気がした。

今日も白にワインレッドの翼が、越後の銀世界を切り裂いていく。
さながら閃光のように駆け抜けるその姿は、大地を染める白銀に鮮やかなワインレッドを添えていった。

◇   ◇   ◇

程なくして、彼は王者の機影に吸い寄せられるかのように、王者の駆け抜ける軌道の上空を飛翔していた。
自らの憧れと共に空を翔ける。これだけのことがどれほど彼の心を揺るがし続けてきたであろうか。
その機影は図らずも常に一羽の鷹を昂ぶらせてきた。彼にとってその存在は何にも代え難い存在だった。

ふと、彼は眼下に白い兎がいるのを確認した。
兎が目に付くや否や、王者に寄り添うように飛翔していたときは全く感じなかった空腹感が彼を襲う。
日もある程度昇り、時間もそこそこ良い時間帯だ。

白の大地の白兎。一見その毛並みは雪へとまぎれるカモフラージュ役を果たしているかのように見えるが、鷹の瞳は決してその存在を見紛うことはなかった。
鷹は、小動物を狩り生きる存在。鋭い眼光の瞳で獲物を捕捉し、鳥類の中でも高速に部類する速度で一気に急降下し、鋭く雄雄しい爪で獲物を捕らえる。
それが、鷹。

鋭い眼光は、王者の色彩から白兎の姿へと移された。今狙うは、かの兎のみ。
彼は空中で大きく翼を数度羽ばたかせると、その場から急降下を始めた。
空を切り裂く、雄雄しき翼。野生の血が、体を駆け巡る。

白く小さな体は、既に彼の目の前まで迫っていた。
兎の方も、空からの襲撃者に気づいていて、視線を久々の晴れ空を切り裂く鷹に向けている。

距離が一層縮まっていった。鷹はその大きな爪で、兎を狩り――

「やっほー、タカヒト。今日も一緒に飛んできたの?」

――狩らなかった。
いや、狩るどころか、自分を見つめていた一羽の兎に声をかけられるや否や、その鷹は兎の真横に爪を突き刺し、雄雄しい羽を折りたたんだ。
兎を狩るはずの鷹には予想だにされなかった光景である。

「ああ。ミントは何をしてたんだ?」
「えーっとねぇ、……車両観察的な何か。683系を見てたの。」

更に驚くことには、鷹の方から兎に言葉を投げかけ始めた。そう、彼らは狩猟対象と天敵という関係ではなく、「かけがえのない友人」の関係だったのだ。
その兎はずっとこの白々と輝く大地に立ち、683系、すなわち“王者はくたか”の飛翔を眺めていたという。
いつしか683系に恋した彼女の魅了のされ方はこれまたかなりのもので、きっとこのことを知れば人間も驚くに違いないくらいだ。

いつしか覚えた、人間の名前。その名前を持つ、一羽の鷹と兎。
狩る対象と、天敵。狩り狩られる関係にあるはずの動物が、白い雪の上で体を休めていた。

目の前を別のワインレッドの機影が流れていく。
大地に彩を添えるその機影は、越後の時間と共に帯のように流れていく。

「ねえねえ、タカヒト。今日もどこかに出かけたいわ。そうね、十日町辺りにでも連れて行ってくれない?」
「そうだな。あそこなら“はくたか”も止まるし、近いから俺の背中で長い間震えずに済むしな。」
「うー……そんなに怖がりじゃないわよ。」

◇   ◇   ◇

空中を華麗に飛翔する一羽の鷹。陽光を照り返す白の大地はかなり眩しかった。
ここ最近は、ただ降っては積もるだけだった雪。久しぶりに太陽が顔を覗かせたこの日は、雪も違って見えた。

「どうした? もう震えているのか?」
「だって……タカヒト、早すぎるんだもの……! 落ちたら死んじゃうわ!」

鷹の背で小刻みに体を震わせる一羽の兎。
隼には及ばずとも、鷹もまた鳥類のなかで高速を誇る部類である。普段地に足をつけ空には縁もないただの兎が、そんな高速に耐えられるはずもない。
タカヒトの背中をつかんでいる両手ですらがくがくと震えている。その震えは、タカヒトが速度を落としても依然として収まらない。
目を開いていても怖いし眩しいだけだと、ミントは思い切り目を閉じた。

初めてタカヒトの背に乗ってからどれくらい経つだろうか。数えきれないほど彼の背中に乗って空を飛んだが、未だに彼の高速には慣れることが出来なかった。
ゆっくり地に足をつけて生きるのがいいわ――ミントは否が応でもそう思わずにはいられなかった。

「今日も……時間がゆっくり流れてる気がするな。」
「そうね。ここではいつものことだけど。……これで貴方がもう少しスピードを下げてくれたら最高なんだけど。
 のんびりとした時間に683系の速さ……この対比もすごく際立つわ。」

不思議な二羽は、白の大地に黒い影を投影していった。
その二羽の影は併走する二条の軌道にぴったりと寄り添うように飛翔し、雄大な自然の中の町並みにある、久しぶりの晴れ間ににぎわう駅を眼下に見下ろした。
そう、その町の名は十日町市、そしてその中に賑わいを見せる駅こそ、彼らの目指す十日町駅である。

 − つづく − 

第2話を読む


This contents was written on 1/12 2010.
Last modifying is 1/12 2010.

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